長谷屋さんを探して(2)世界一周図絵
大正時代に世界一周をした大阪の長谷屋為五郎さんを訪ねる旅、前回の続きです。
『世界一周圖繪』という著書があることを知った私は、大阪市立図書館を訪ねました。
禁帯出ではありましたが、すぐに書庫から出して見せてもらえました。
B4横ほどの大判で重みのある書物です。
ついでながら、なんと中から長谷屋為五郎さんの書状が出てきました!
大阪市にこの本を献本したときの書状です。
達筆な筆書きで書かれています。
「はしがき」や「緒言」を読むとおおよそどのような旅だったのかは分かりました。
要約すると次の通りです。
<旅に出た理由>
○皇太子殿下の御外遊(注:大正10年3月3日〜9月3日まで、皇太子時代の昭和天皇がイギリス・フランス・イタリア・バチカンなどを史上初めて訪問)が刺激・動機となった。
○その際、当時隠居していた母親からの
「おまはんもひまが出来たら行っておいでなはれ。西洋も一ぺんは見とかんと話にならん。又、御維新からこっちはなんでも西洋の真似ばっかりやけんど日本は神国やけに向こうの正体も見届けずに真似ばっかりしとってもどむならん。又、私も同行二人で行きたいのやけんど、年寄りではどむならん。おまはんが行って珍しい写真や何や送ってつかはるとええ」
との言葉があった。
○母はその冬の風邪がもとで翌年(大正11年)の夏に亡くなった。
○その翌年(大正12年)の秋、西洋の正体を見届け、母の生前楽しんでおられた写真などを集めようと、旅行に出発した。
○この本は道中に各所から無人の隠居所に送ったものを整理して額面となし、本として母の霊前に供えまつったものである。
<道中について>
○外国語は青年時代に習ったばかりで使用せぬ英語が少しだけ。この旅行にはかなり困難な場合もあり、又、滑稽なこともあった。
○しかし、国内に居て外国を眺めるよりも国外に出て日本を振り返り見る方が遙かに尊い教訓を得た。機会があれば出かけることを世の諸賢にお奨めする。
○この旅行では、関西大学当局から、世界の各大学との交歓のための訪問ならびに各種の視察を嘱託され、関西大学の一員として特派される形式で、米国10校、欧州6校の著名大学を歴訪し、非常に便宜が得られた。
<この本のできたいきさつ>
○もともと製本する目的で編集したわけではない。
○御大礼奉祝記念の大阪市主催交通電気博覧会(昭和3年10月1日〜12月3日。会場は天王寺公園。入場者数100万人)の開催にあたり、世界旅行の交通に関する資料出展を求められ、当時集めた図絵写真など、米国経由で欧州をめぐり帰朝するまでを、縦2尺×横2尺6寸の36枚に編集し、参考館内に陳列した。
○その後、業務の合間に世界の著名美術館・博物館の代表作、各国の風俗・風景・地理・歴史・経済・統計・貨幣・切手・ラベル等の蒐集品を27枚を増補した。計1600余点。
○一目瞭然、欧米を知る本、自分の備忘録、諸賢には読む旅行記としてコロタイプ版で出版した。
以上が概略です。
なお、実際の旅は、大正12年の秋に出発し、大正13年3月29日に帰国する半年間の東回りの旅で、およそカナダ・アメリカで60日、ヨーロッパで60日、船中で60日だったそうです。
旅行の内容については、後日、別の記事でまとめておこうと思います。
<長谷屋為五郎編『世界一周圖繪』より目次>
※クリックすると拡大します
本は旅の順序で編集されているので、目次を眺めればおよその旅程は分かると思います。
<長谷屋為五郎編『世界一周圖繪』より「香港と上海」>
※クリックすると拡大します
本は現地で収集した写真などを貼っているページと解説のページが交互にあります。
写真のページの例が上のコピーです。
この場合は、旅の最終盤、「香港と上海」についての記録が書かれていますが、このように見て楽しい内容になっています。
ところで、です。
この「香港と上海」のページに気になるものが貼ってありました。右の方です。
<長谷屋為五郎編『世界一周圖繪』より>
これです。
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長谷屋洋服店階下
ハセヤテイルーム(ティルーム)
大阪名物 7908
ハセヤのポテト 電話番6014
大阪上六交差点 4512
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これは長谷屋さんのお店では?
本業が洋服店で、ティールームも兼営していてポテトが名物。
あるいは欧米で見たティールームに触発されて自分でも始めてみたのでしょうか?
これは現地に行って確かめてみなくてはなりません。
上六交差点へ!
→長谷屋さんを探して(3)世界一周旅行、(4)上六へ、
に続く
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コメント
遅くなりましたが謹賀新年。
本年もサラッと深い記事で楽しませてくださいます様…って、もうすっかりびんみんワールド全開ですねぇ。
“奉納石柱”…ここに記してある企業名とか店名には「おや?」と思うことありますが、そこにある個人の名前からここまで深く広がる…ごっつオモロいです。
で、今度は上六ですか。もっと楽しみにしときます。さすがですびんみんさん。
投稿: 山本龍造 | 2012年1月 4日 (水) 09:30
山本龍造さん、あけましておめでとうございます。
ちょっと年明けから飛ばしてます、って手持ちの大きなネタはこれだけですけど。
楽しんでいただければ幸いです。
今年もよろしくお願いします。
投稿: びんみん | 2012年1月 4日 (水) 11:20
お、これがその本ですか!!
最後の広告がええですね・・・今に繋がるか!!って興味深々!!
近鉄のターミナルビル建設で立ち退いて別の場所で
今も営業していたりして~
長谷屋って服屋さんが淡路にありますね~
検索すると~もしかして・・・
いやぁ、今後の展開が楽しみであります!!
投稿: 路爺 | 2012年1月 4日 (水) 23:09
路爺さん、こんばんは。
コメントが遅くなりました。
そうなんです。これがその本です。
関連情報もありがとうございます。
兄弟・親戚で同じ商売をされてたりしますから、関係がある可能性もありますよね。
投稿: びんみん | 2012年1月 5日 (木) 20:30