大正時代の日下遊園地(東大阪市)
夏の太陽が照りつける先週、石切(いしきり)に出かけました。
近鉄奈良線の石切駅は生駒山をくぐる直前の駅で、大阪平野が見下ろせる山麓にあります。
<大正15年発行 2.5万分の1「生駒山」>
目的はこの地図に表示されている日下(くさか)遊園地です。
調べてみると大正4年から昭和初期にかけてあった遊園地だとのこと。
何か痕跡がないか確認したくて出かけたのでした。
当時の線路は現在の線路の北側を走って、大正3年に開通した旧生駒トンネルをくぐっていました。大正15年の地図に示される鷲尾駅は大正3年に日下駅として開業し、大正7年に鷲尾駅と改称、昭和15年にさらに孔舎衛坂(くさえざか)駅と改称して、昭和39年に新生駒トンネルの開通とともに廃止されました。石切駅の位置も今より南です。
昔の線路跡に沿って歩いて行くと、古い変電所が現れました。
いつのものかは分かりませんが。
昔の線路跡は予想外にはっきり残っていて、駅舎こそありませんが、プラットホームはそのままです。
トンネル入口は厳重に管理されていました。
旧生駒トンネルや孔舎衛坂駅について紹介されている方は多いので、そちらをご覧下さい。
生駒トンネル工事は相当な難工事で、多くの犠牲者を出し、大阪電気軌道(近鉄)や工事を行った大林組の経営を危うくさせるほどのものだったようです。
駅前には「くさかみち」(日下道)の道標が立っていました。もう少し上にもう1つあります。
鷲尾駅跡から住宅地を抜けて道をたどると、天女ヶ池(日下新池)のほとりに出ました。この周りが日下遊園地です。
<大正15年発行 2.5万分の1「生駒山」>
さきほどの地図を拡大して細かく書き込んでみました。
大阪商業大学商業史博物館さんのバーチャルミュージアムの記事(リンク切れ)によれば、日下遊園地は大正4年(トンネル開通の翌年)に地元の手で開設され、メインは池の北側の日下温泉でした。池の東岸には料理旅館「永楽館」、少女歌劇団の舞台がありました。池には貸ボート、堰堤には桜、ミニ動物園もあり、南側には乗馬クラブもあったとのこと。
現在も天女ヶ池はそのままありますが、遊園地の跡をしのぶのは難しそうです。
当初は大阪電気軌道も日下遊園地に協力的でしたが、大正15年には独自に菖蒲池遊園地、昭和4年に生駒山上遊園地を開園し、日下遊園地自身の経営トラブルも重なって遊園地は衰退していきました。
日下遊園地を開発したのがどんな会社だったのかについては下記の文献があります。
→小川功氏「生駒山麓の遊園・観光開発計画の蹉跌 −日下温泉土地を中心として−」(生駒経済論叢、2009年7月)(PDF)
温泉浴場本館のできたのは大正10年なのですね。
桜の堰堤から。今は静かな池です。
もともとは多くあった、ため池の一つなのでしょうね。
池の東岸を見たところ。背後は草香山でしょう。
もう少し目を凝らすと、古い石垣が見えます。
大正15年の地図で東岸に3つの建物が描かれていますが、たぶん一番北にある建物の土台ではないかと思います。
池の南東に立っている建物のあたりが料理旅館「永楽館」の跡ではないかという気がします。奥のあたりにボート乗り場でしょうか。
池の北岸まで歩くと古い石垣と階段が現れました。
登ってみるとちょっとした公園になっています。
明らかに建物の跡です。
ここは「パンドラの丘」と名付けられています。
説明によれば、なぜパンドラなのかというと、
日下遊園地が衰退した跡、温泉旅館の建物を利用して、昭和12〜17年まで孔舎衛健康道場という結核療養施設があり、ここで療養していた太宰治ファンの手記をもとに太宰治が「パンドラの匣」という小説を書いたことにちなむそうです。
ここを整備されたのは森林ボランティアの「日下山を市民の森にする会」で、このパンドラの丘を活動拠点にされています。
孔舎衛健康道場の写真なども掲示されていました。
パンドラの丘の裏手に、気になる構造物がありました。
どうも貯水槽のようです。
割れたモルタルの下から煉瓦が覗いていて、煉瓦積みであることが分かります。日下温泉会館または孔舎衛健康道場の時代のものではないでしょうか。
三角の刻印が入っています。
その上にももう一つの貯水槽らしきもの。
さらにその上にも煉瓦の小さな構造物がありました。
改めて北側から池を眺めます。
少し高いところまだ上がると、池の堰堤越しに大阪平野が眺められます。
とても気分爽快な遊園地だったでしょうね。
帰りは北西の道から出ました。
堰堤を切り通すように道が作られています。
あまり日下遊園地をしのぶものはありませんでしたが、有志の方が再び公園として整備しているようで、今後が楽しみでもあります。
<近くの記事>
○枚岡神社に初詣 ○元演習林の枚岡公園 ○東大阪ものづくりの源流-豊浦界隈 ○少しだけ額田山荘
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