末っ子は洋風下見板 〜大阪市営杭全住宅
以前からとても気になっていた「西平野」(現在の杭全(くまた))を歩いてきました。
きっかけは『大阪市土地区画整理図輯』(昭和6年)です。
その中の一枚に「西平野土地区画整理事業」の図面(上図)があり、2つの点で非常に興味をそそられました。
一つには、組合事務所が関西土地(株)(大美野田園都市で知られる)であること。
二つめには、大阪市営住宅が描かれていることです。
この大阪市営住宅の区画は終戦直後の米軍撮影空中写真にも写っており、現在のグーグルマップで見ても同じ区画が維持されているように見えます。(これは期待できる!)
調べてみると次の論文がみつかりました。
穐山憲・蓮井睦子・宮岡大・小玉祐一郎さんの
「大阪市営杭全住宅の住環境設計とその現状評価に関する研究 : その1 歴史的位置付けとその特色に関する考察(環境との共生,建築計画II)」(2001)
宮岡大・穐山憲・小玉祐一郎さんの
「大阪市営杭全住宅の住環境設計とその現状評価に関する研究 : その2 杭全住宅の現状調査(環境との共生,建築計画II)」(2001)
この2本の論文で、この市営住宅が、以前に出会った大阪市営北畠住宅と兄弟関係にある杭全住宅であることを知りました。以下、この論文を参考にさせていただいて説明します。
大正から昭和初期にかけて、当時の関一大阪市長は住宅問題の解決策のひとつとして市営住宅の建設と運営を実施したそうです。市営住宅には貸付住宅と月賦住宅、不良住宅改良(いわゆる軍艦アパート)のタイプがあり、このうち月賦住宅は5ヶ所に建設されました。
掲載表によると次の通りです。
(1)北畠住宅(住吉区天王寺町)
大正15年12月建設、104戸
(2)高見住宅(西淀川区高見町)
昭和2年2月建設、70戸
(3)都島住宅(北区澤上江町3丁目)
昭和2年4月建設、60戸
(4)今里住宅(東淀川区今里町)
昭和2年5月建設、88戸
(5)杭全住宅(住吉区杭全町)
昭和3年2月建設、136戸
つまり、5人兄弟の長男が北畠住宅で、末っ子が杭全住宅といえます。
北畠住宅と杭全住宅が中産階級向け、残りは工場労働者向け住宅だったそうです。
2001年の論文の時点で、外壁・外観が維持されている住宅が24戸、躯体等一部が保存されているものが45戸、計69戸が現存とされ、地図も載っています。
この地図を片手に現存を確認してきました。
現在の住所は東住吉区の杭全7丁目で、最寄駅はJR大和路線の東部市場前駅です。(初めて降りました)杭全の交差点を斜めに渡って、国道25号から中に入ると杭全の旧集落の向こうに西平野土地区画整理地区に入ります。ここにも興味深い物件は多数なのですが、それはまた改めて。
まっすぐ市営住宅のあった場所に向かいます。
杭全住宅地区の角で、改築はされていますが、さっそく昔の住宅が出迎えてくれました。
さきほどの論文によると4戸1ブロックの構成で、4戸の真ん中に中庭のような空間ができるプランだったそうです。
これも古い住宅。
屋根が洋瓦(後で紹介します)でしかもカラフルです。
もともとそんな葺き方だったのでしょうか。
こちらは外壁が下見板。
だんだんオリジナルに近づいてきました。
この門柱はアールデコが入っています。
門柱は一種類ではなく、いろんなパターンがありました。
かなりオリジナルに近い住宅です。
この玄関扉など変わってなさそうです。
北畠住宅と比べてかなり洋風。
取り外した洋瓦が庭に置かれていました。
鬼瓦にはおなじみのパルメット(ナツメヤシ)模様です。
今まで見たことのあるパルメットの鬼瓦の中でもかなり美しく感じます。
屋根瓦も洋風なのが、和風瓦の北畠住宅との大きな違いです。
この住宅は小公園に面して建っています(奥側の住宅)。
小公園は2つあって、もう一方にはこれも古そうな集会所が建っています。こんなものもあるとは。これは住宅の建設後に建てられたそうです。
「中町会会館」という表札がかかっています。
入口の屋根もちょっとしゃれた感じ。
ちなみにトップの写真はこの公園周辺の写真で、このあたりが一番、昔の雰囲気を感じられます。
こちらのお宅は植栽がきれい。
1階の白い木製格子はオリジナルのようです。
門柱がまた違うパターンです。
植栽によってまたかなり印象が変わります。
もとの住宅への愛着を感じさせる増築例。
あえて、元々の下見板を見せています。
最後に見つけたこの住宅が私のお気に入りです。
2階の白いベランダ手すりと白い窓による格子パターンがいい。
素敵です。
玄関へのアプローチもいい感じです。
結局、外壁・外観が維持されている住宅が15戸、躯体等一部が保存されているものが39戸、計54戸が現存のようです。プラス集会所。あまり正確とも言えませんが、かなり残っていることは確か。
日没のため、関西土地(株)による西平野土地区画整理地区(うち60%は「平野荘園」住宅地)をほとんど写真に撮れませんでした。改めて天気の良い日に出直そうと思います。
まだ見たことのない方、お勧めです。
| 固定リンク
「建築」カテゴリの記事
- 野外博物館・四国村(香川県高松市)(2024.07.14)
- 屋島ケーブル跡(香川県高松市)(2024.06.24)
- 北白川の住宅地を歩く(京都市左京区)(2024.06.06)
- 岡ビルから南の建物(愛知県岡崎市)(2024.02.16)
- 六所神社の彫刻(愛知県岡崎市)(2024.02.11)
「日常旅行(大阪)」カテゴリの記事
- 2022年もよろしくお願いします(2022年初歩き)(2022.01.02)
- トンガリ屋根の市営住宅(東大阪市)(2021.08.02)
- 野里を歩く(大阪市西淀川区)(2021.07.25)
- 姫島を歩く(大阪市西淀川区)(2021.06.13)
- 住吉大社門前の道(大阪市住之江区)(2020.01.03)
コメント
びんみんさま
今年最後にまたまた素敵なものを見せて頂きました。特にびんみんさまのお気に入りのお宅、ほんとに可愛いですね~
私事ですが、来春、南浜・・・の一角に転居の予定です。残念ながらレトロ建築では無いのですが。落ち着いたらびんみんさまのお薦めをゆっくり散策したいと思います
今年は秋にこのブログを見つけることができて幸せでした。来年も楽しみに見せて頂きますね
では、どうぞ良いお年を
投稿: たんぽぽ | 2009年12月31日 (木) 13:53
たんぽぽさま
見に来ていただいてありがとうございます。
最後のお宅、気に入っていただけてうれしく思います。
青空の下なら、もっと映えると思うんですけどね。
南浜・・・にお引っ越しですか。
私も全て歩いている訳ではないので、見逃しているすてきな家などもあると思います。
見つけられましたら、ぜひ教えてください。
来年もよろしくお願いします。
よいお年を!
投稿: びんみん | 2009年12月31日 (木) 14:10