任せることと守ること(細野ビルの66展)
西長堀の細野ビルに立ち寄ったのは全くたまたまのことでした。大阪市立図書館での調べものを終え、気になる場所を見に行こうと歩いていたときに、偶然、この建物が目に入ったのです。コンクリート打ち放しのような凄みのある雰囲気ですが、ポスターや受付らしきものがあり、何かイベントを行っている雰囲気があるので、近づいてみると・・・
「66展Ⅳ」というイベントを開催中でした。この建物は、芦屋・六麓荘の開発(他にも大阪や神戸の築港工事など)を行った細野組・本社ビル(昭和11年竣工)で、築後66年を記念して始まったのがこの「66展」だそうです。今年が4回目。メインイベントは6月6日6時6分スタート、66人のアーティストによるアートイベントと徹底して「66」にこだわっています。
今日はアート展示のみで、地下1階と2階が展示会場になっています。
とくに地下の展示は、地下室にこわいぐらい合っていて、地下のポンプや配管と一体化していたり、この写真のように舗道窓(道の脇にガラスブロックを埋め込んだ明かりとり)をトップライトに使って、絵を見せていたりします。(絵は勝手に写すわけにいかないのでなし)油絵の具のにおいも地下室にぴったりです。ちなみにこのガラスブロックは下面が四角錐になっています。
もし建物に興味があれば社長室を見せますよ、とのことでしたので、もちろん見せていただきました。電灯以外は、アールデコの机も含め、使われていた当時のものがそのまま残っています。玄関を入って受付になっているスペースは事務所です。このビルの特徴を一言で言うと「非対称」だそうです。柱の間隔、柱の形や太さ、1階と2階の平面配置、みな違うそうです。「このスペース撮ってもいいですか?」と聞いて撮ったのがこの事務スペースの写真。「社長室はだめだけどね」(良かった、聞かなくて) どうも我がことのようにおっしゃるのが気になるので、確認してみると案内者はこのビルのオーナーさんでした(!)。他の部屋はテナントやイベントにかなり自由に貸しても、社長室だけは使用禁止だそうです。それが創業者への敬意です。他にも、イベントは自由に受け入れる、ホームページを持たない、案内書を出さない、など自由にまかせる部分と絶対譲れない部分をはっきり持っておられるようでした。このビルには吸い寄せられるようにたくさんの人が立ち寄るそうです。
現在、オーナーさんは、ビルを徐々に竣工当時の姿に復元中なんだそうです。気になる外壁について質問すると、残念そうに、「地下鉄工事のときにタイルの一部が剥落したので、全部剥がしてしまったらしい」とおっしゃっていました。記録によれば、外壁の1階は北木島(岡山県笠岡市)産花崗岩(現存)、2階・3階は淡クリーム色テラコッタ・タイルだったそうです。さらに1階窓には面格子が付いていて、恐らく戦時中に金属供出されたので、これを復元したいとおっしゃっていました。
さらに今まで知らなかったのですが、創業者の細野濱吉という方は、兵庫県家島の出身だったのだそうです。家島の石材を商うことから業を始めたと。知人に家島のまちづくりに関わっている人がいるという話をすると、家島の古い写真など出してきていただいて、その人に来てもらってくださいということになりました。
何か、全てが導かれているような一日でした。
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